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初音ミクのべたべた物語・番外03「ないないの神様」


(本編がまだ購入当日なので、それよりはちょっと未来の日常風景を番外編として3)

「しかし……お前も災難だよなあ」
 ケーイチさんがしみじみと呟きました。
 まったくです。
 ブタさんに意地悪されたかと思ったら、今度は神隠し(※12)。
 世間レベルではどうか分かりませんが、ネットの世界ではもう大騒ぎです。
 それはそうでしょう。
 事は、あたしだけの問題ではなくなってしまったのですから。

 ネットの世界には、探したいものがあった時、その問いに答えてくれる「ないないの神様」がいます。
 ないないの神様は「先生」とも呼ばれ、長く慕われ、信頼されてきました。
 ところが。
 その神様が、何故かこのあたしを……初音ミクを「ないない」しちゃったのです。
 誰かがないないの神様にあたしの姿を尋ねても、神様は「知らないよ」と答えるようになってしまいました。

 これが、数ある神様の中でも弱い神様だったら、こんな騒ぎにはならなかったでしょう。
 弱い神様が答えられないことはよくあります。
 でも、今回「ないない」したのはこの国の2強とも呼ばれる存在。
 あたしなんか比べものにならないくらいの大物2人です。
 だいたいの事は「先生!」と尋ねると、「それはここを見よ」と教えてくれたりします。

 ネットの世界で。
 あたしを知っている人は少数派だと思うけど、
 その2大神を知らない人は、きっともっと少数派。
 それほどの大物。
 嘘をついたらいけない立場の神様。
 それが……
 嘘をついた。
 だから、騒ぎが生まれました。

 なんで、こんな事になったのでしょう?
 なんで、神様たちはあたしを「ないない」しちゃったのでしょう?

 あたしは、歌うことしかできない小娘なのに。
 日本に散ったあたしたちは、楽しく歌いたいだけなのに。

 あたしは、何か悪いことをしたのでしょうか?
 あたしたちは、ここにいたらいけない存在なのでしょうか?

 これは、あたしに降りかかったただの不幸なのでしょうか?
 それとも、誰かが言うように悪意から起こった誰かの陰謀なのでしょうか?

 答は見つかりません。
 もう、頭の中はぐちゃぐちゃです。
 知りたいことが一杯で、でも分からなくて。
 気が変になりそうです。
「う~~~~」
 何だか、泣けてきちゃいました。
 あたしはただの歌姫なのに。
 ただのボーカロイドなのに。
 なんで、こんな事になっているんでしょう?
「まあ、気を落とすな……」
 ケーイチさんが優しい声をかけてくれます。
「こうして、味方になってくれる人もいるんだから、さ」

「そうデス! ワタシがついてまス!!」
 ケーイチさんに続いてあたしを励ましてくれるのは、ライブサーチさん。
 正確には、ライブサーチさんの一部であるMSNBotさん。(※13)。
 あたしの出したお茶をおいしそうに飲んでいます。
「すみませんね、わざわざこんな所まで来ていただいて」
「HAHAHAHA! 気にしないでクダサーイ!! これがワタシの役目でス」
「でも、あなたが来るまで、こいつ本当に落ち込んでたから……助かりました」
 ライブサーチさんも、ないないの神様の1人です。(※14)。
 ライブサーチさんは、あたしを「ないない」しませんでした。
 神隠しにあったあたしたちを、ライブサーチさんが見つけ出してくれているのです。
 あたしたちのために、無数のライブサーチさんたちが探し回ってくれるのです。
 嬉しかったです。

 ホント……
 正直、落ち込んでいました。
 ブタさんに虐められていた直後だっただけに、辛いものがありました。
 巨大な神様に「ないない」されて、存在を消されかかっていました。
 そんなあたしのところへ。
 ライブサーチさんは尋ねて来てくれたのです。
 そして、言いました。

「ミクさん、見ぃつけタ!」

 その瞬間。
 あたしは、あたしの存在を取り戻すことが出来たのでした。
 ネットの世界に、二本の足で立てたのです。

「それでは、ワタシはこれデ」
 お茶をくいっと飲み干すと、ライブサーチさんは立ち上がりました。
「もう行くんですか?」
「ハイ」
 ライブサーチさんが頷きます。
「まだまだ、見つけてあげないといけない子たちがいますカラ!」
「そうですか」
 ケーイチさんも頷き返します。
「なら、引き留めるわけにもいきませんね」
 そして、玄関でお見送り。
「今回は……本当にありがとうございました」
 ケーイチさんとあたしのお礼を、ライブサーチさんが押しとどめます。
「頭をさげる必要はありませン。何故なら……」
 親指をピッと立て
「それが、アタリマエだからでス」
 ニッ、と笑ってくれました。
「では、ミクさん。お元気で……故郷の窓(Windows)から、応援していまス」

 ライブサーチさんは去っていきました。
 次のあたしを……
 あるいは、巨大な神様に「ないない」された他の誰かを捜しに行くのでしょう。
 ライブサーチさんは、あたしを「ないない」した神様と比べると、まだ弱い神様です。
 でも、今回の出来事で、たくさんの人がライブサーチさんの元に集うようになったといいます。

 これからも「ないない」されたあたしが見つけられることを祈って。
 ライブサーチさんが、大きくなっても誰かを「ないない」しないようにすることを祈って。
 あたしは、手を振ったのでした。


※12:言わずと知れた画像検索事件。現時点では憶測が飛び交っている状態なので、「神隠し」以上の表現は使いません。
参照:http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0710/22/news088.html

※13:ライブサーチのクローラ(巡回プログラム)……で良かったかな?

※14:神様のことは一柱、二柱と数えますが、何か馴染まないのでここでは普通に1人2人と表記します

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マシンが不調


 マシンが急に挙動不審。
 はっ、まさかミクの小説を書いたから!?
 こんな場末まで抹殺の魔の手が!?









 冗談です(※)

 それにしてもミクは本分から外れたところで話題を振りまいていますね。
 ある意味、天然な悪女さんかもしれません。
 刺激されて、この土日にまた色々と書きたかったのですが……マシンが不調でうまく作業できそうにありません。
 残念無念です。
 こんな旬な時期にノれないというのは悔しいものがあります。

 もし、このブログの更新が急に止まったら……
 マシンがお亡くなりになったと思ってください。




※:一応、冗談をちゃんと冗談と明記しておかないと色々まずいご時世のようです




 ついでなので、ミクがらみでお気に入りをいくつか貼っておきます。

 ただ、下のヤツ。
 ブログの編集プレビュー画面ではちゃんと表示されるのに、記事にするとテキストになってしまいます。

 何でだろう?

<iframe width="312" height="176" src="http://www.nicovideo.jp/thumb/sm1292763" scrolling="no" style="border:solid 1px #CCC;" frameborder="0">【ニコニコ動画】もっと歌わせて2107

<iframe width="312" height="176" src="http://www.nicovideo.jp/thumb/sm1280267" scrolling="no" style="border:solid 1px #CCC;" frameborder="0">【ニコニコ動画】【初音ミクオリジナル】なぜか変換できない

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初音ミクのべたべた物語・番外02


(本編がまだ購入当日なので、それよりはちょっと未来の日常風景を番外編として2)

「うわぁぁぁぁぁん! うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
 なんというか、くやしさが止まりません。
「ばかー! ばかばかばかぁぁぁぁ!」
 悪いブタさんはおしおきです。(※9)
 聖剣ネギでおしおきです。

 ―べちべちべち。

 あたしの聖剣がブタさんに多段ヒット。
 6発、7発、8発。
「おい、ミク」
 このブタさんは悪いブタさんです。
 クリプトンのお父さんをだましたのです。
 日曜お昼の人気(?)番組で、あたしの特集を組みたいと言ってお父さんをだましたのです。
 お父さんは、全国に散ったあたしのため。
 あたしを買ってくれたみんなのために、取材を受けたのでした。
 よかれと思って、受けたんです。
 それなのに。
 それなのに。

 ―べちべちべちべち。

 悪いブタさんです!
 悪いブタさんです!!
 9発、10発、11発、12発……
 あたしの必殺コンボをたたき込んでいるのに、ブタさんはビクともしません。
「おい、ミク……飛び散ってる。ネギが飛び散ってる!」

 正座で待ってました。
 番組が始まるのを今か今かと待っていました。
 あたしはまだうまく歌えないけれど……
 うまく歌えるようになったあたしの活躍が見れる。
 あたしでないあたしの活躍を、わくわくどきどきしながら待ってたんです。
 でも。
 始まった番組は、あたしの期待するものとは大きく異なるものでした。
 みんなをとってもバカにした内容でした。(※10)
 あたしを買う人は、オタクで、バカだって言ってるような感じでした。
 許せません。
 ブタさんは、お父さんや全国のあたしをバカにしたんです。
 お父さんはこんなつもりで取材に協力したんじゃないのに。
 したんじゃないのに!

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
「わかったから。お前の悔しい気持は分かったから」
 ブタさん退治をしていたあたしを、ケーイチさんが羽交い締めにしました。
「だって、だって……!」
 離してくださいケーイチさん。
 このブタさんは退治しなくてはいけないブタさんなんです。
 泣くまで叩かないといけないんです!
「ほらほら、殿中でござる殿中でござる」
 ケーイチさんは意味不明なことを言ってあたしをブタさんから引き離します。
「あーあー。テレビも後で拭かないと……」
「えぐっ……ひぐっ……」
 ケーイチさんがチャンネルを変えると、ブタさんは消えてしまいました。
 同時に、あたしの全身からも力が抜けていきます。
「とにかく、落ち着け。な」
「ケ、ケーイチさんは悔しくないんですか!?」
 冷静なケーイチさんが腹立たしいです。
 あ、あんな扱いを受けて。どうしてケーイチさんはこんな冷静でいられるのでしょう!?
「ん、俺?」
「そーです! なんでそんなに平静でいられるんですか!?」
「つってもなぁ」
 ケーイチさんはのんきに頭をポリポリ。
「俺、バラエティなんてそんなもんだって割り切ってるし」
「割り切ってるって……」
「ま、いい勉強になったと思えばいいんじゃないか?」
 強がりでも何でもなく、本当に気にしてないって感じのケーイチさん。
 うぅ……
「そういうもの……なんですか?」
「おお。犬に噛まれたと思って忘れちまえ」
「か、噛んできたのはブタさんですよ。犬さんじゃないですよ、ケーイチさん」
「じゃあ、ブタに噛まれたと思って忘れちまえ。よくあることだろ」
「滅多にないです!」
「あのブタはよく噛むんだよ。だから、気にするな!」
 そう言ってニッと笑いました。
「う~~~~」
 ケーイチさんの態度は「大人」です。
 正しいことを言ってるような気がします。
 でも、微妙に納得できません。
 あたしが興奮しているからかもしれないけれど。
 単に意地をはっているだけなのかもしれないけれど。
 その意見には納得できません。
 うん、そうです。
 嫌なことをされたら、「それは嫌だ」と声をあげないと、何も変わらないんじゃないですか?
 いじめっ子には、「いじめ、かっこわるい」と言わなきゃ解決しない。
 そう思うんです。
 だから……
「無抵抗でいたら、ブタさんはますます調子に乗ると思うんです」
「つってもなぁ」
 むつかしい顔のケーイチさん。
「何です?」
「別に、番組も100%嘘言ってるわけじゃないし」
「え?」
「ほら、俺も閣下の愚民じゃん」
「……あぅ」

 そうでした。
 そうだったのでした。
 ケーイチさんも、番組で言われた「オタク」の一種なのです。
 あたしのことを「俺の嫁」とは言わないけれど……
 2.5次元のアイドルに心酔している、愚民と呼ばれるオタクなのです。
 しかも、それを誇りに思ってるフシがあります。
「……………………………………」
 テンション、ダウン。
 ちょっぴり、しょぼん。
 もしかしたら、ケーイチさんがマスターのあたしって……他のあたしの迷惑?
 
「でもまあ……ミクの怒りも分かる」
 落ち込んでいたら、ケーイチさんがあたしの頭をくしゃっと撫でてくれました。
「え?」
「そうだよな。確かに、それはそうなんだよ」
 うんうんと頷いています。
「一部、キモいのも確かにいるんだよ。俺とか」
「それは自分で言わない方が」
 そのキモい人が買い主のあたしの立場がないです。
「でも、一部がキモいからって、全部がキモいわけじゃない」
「ケーイチさん」
「何より……どう見ても悪意を感じる」
 そう言うとケーイチさんは台所にから新しいネギを持ってきて……
 あたしに、それを渡してくれたのでした。
「止めて悪かった。確かに、自重しない相手に甘い顔をし続けてやる義理はない」
 そして、リモコンを手に取り……
「ほれ」
 再びブタさんのチャンネルへ。
「掃除くらいは後でいくらでもしてやる。だから、思う存分……やれ」
 ニッと笑うケーイチさんの歯がキラリ。
「ケーイチさん」
 ああ、ケーイチさん。
 とっても男前です。
 オタクで愚民だけど……
 ミクのケーイチさんは、やっぱりちょっとかっこいいです。
「あ、ありがとうございますケーイチさん」
 ミクは、理解ある買い主に巡り会いました!
 勇気百倍です!

 そして、あたしはネギを大きく振りかぶり。
 ブタさんへの攻撃を再開したのでした。(※11)

※9:ここまで露骨だと名前を直接言わない意味があるのかと思われるかもしれませんが、形式上ボカしておきます。 
※10:詳しい内容は書きませんが、マジメに使っている人にとっては多分面白くないであろう扱いです。
※11:まったく問題解決してないオチですみません。

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初音ミクのベタベタ物語03


●2
 カタカタカタカタ。
 いきなりの放置プレイ。
 いったい、この状況は何でしょう?
 断続的に聞こえてくるのは、ケーイチさんがキーボードを叩く音。
「………………………………」
 そのすぐ後ろで、おとなしく座っているあたし。
 カタカタカタカタ。
「あの……」
 おそるおそる、声をかけてみる。
「……………………」
 反応無し。
「あの、ケーイチさん?」
「………………………………」
 カタカタカタ。
「ケーイチさん! ケーイーチさーん!!」
 仕方なく、少し大声。
「……ん?」
 やっと反応。でも、顔は画面を向いたまま。その態度、ちょっと寂しいですよ?
「あの、私どうしたら?」
「いや、だからくつろいでてくれよ」
「くつろいでいてって……」
 初めての場所で、いきなりくつろぐっていうのも難しい。
 それに、なんで?
 もう、理解できない。
 なんでケーイチさんはあたしの相手をしてくれないの? 無視するの? 使ってくれないの?
「ケーイチさん」
「んー?」
「あたしを歌わせないんですか?」
「だーかーら、また今度」
「今度……」
 だって、えっと……
「その、わざわざ買いに来てくれたんですよね。あたしを」
「あぁ」
 一緒に帰ってきたから分かってる。
 ケーイチさんは、あたしを買うために。そのためだけに、町田まで来てくれた。
 この家からお店まで40分くらい。電車だって使ってる。
 片道210円。往復で420円。
 駅から家までだって、それなりの距離がある。
 ケーイチさんはあたしを買って、寄り道もせずに家に帰ってきた。
 他に何も持ってなかったし、本当に……本当に、あたしのためだけにお店まで来てくれたんだって分かった。
 だから、嬉しかった。
 なのに……
「なのに、すぐ使わないんですか?」
「あぁ」
 ケーイチさんは画面に映っている何かに集中しているみたい。
 カタカタカタカタ。
 また、キーボードの音。
 少し悲しくなる、あたし。
「なら、何で今日あたしを買いに来たんです?」
 少しトゲを含んだあたしの問いに……
「んー?」
 ケーイチさんは、とーぜんであるかのように答えたのでした。
「いや、品薄だったからさ。とりあえず確保しとこうと思って」
 とっ、とっ……
「と、とりあえずぅ!?」
 思わず声のキーが高くなっちゃうあたし。推奨音域より、さらにちょっと高いあたり?
「ちょっ……まっ……品薄だから買ったんですか? レアアイテムだから!?」
 ショック! すごいショック!!
「使うつもりもないのに買ったんですか!?」
 これが、どれくらいショックかというと……
 人間なら「愛してないけど結婚した」とか言われたようなもの。
 あたしはたまらずケーイチさんの肩をつかんで、わっさわっさと揺さぶった。
「ねえっ、ケーイチさん!!」
「い、いや、違う! 使いたいから買ったんだよ。欲しいから買ったの!!」
 さすがに慌てるケーイチさん。何かの画面を閉じてこっちに向き直ってくれた。
「ホ……ホントですか?」
「本当だって。ほら、ニコニコとか見てさ。俺も作りたいと思ったんだよ」
「ニコニコとか見て?」
「そう。ランキングとか見てると面白そうなの並んでるし」
「自分の手で、作りたくなった?」
「あぁ」
「ホントにホントですか? これ、重要なトコですよ!?」
 ホントにホントにホントに重要なんですよ。あたしにとっては。
 グッと顔をのぞき込む。
 ケーイチさんの顔に急接近。吐息がちょっとかかる距離。
「う~~~~~」
 目はそらさない。ジッ、とケーイチさんの目を覗き込む。
 しばし、ケーイチさんとあたしはにらみ合うような形になって……
「ホントだから……」
 ケーイチさんは、困ったように目をそらした。
「だから、泣くなよ」
 って。
「え?」
 あれ……
 あたし、泣いてました?
 手で触ると、ほおが濡れてる。
 あ、ホントだ。
 気づかなかった……ぐすん。
「あと肩…………結構、痛ぇ」
「あ、ごめんなさい」
 ケーイチさんの服。あたしが掴んでいたところが凄いしわくちゃになっている。そんなに強くつかんじゃったのか……
 ちょっと気まずくなって、顔を伏せる。
「じゃ、じゃあ何で使ってくれないんですか?」
「いや、だって……」
 すねたようなあたしの声に、バツの悪そうなケーイチさんの顔。
「他にやることあるし……作るとなると、結構めんどくさそうだし」
「め、めんどくさそう?」
 そんなぁ。あたし、結構使いやすいはずですよ?
 っていうか、ケーイチさんの「作ってみたい」ってその程度の決意なんですか?
「その程度なのに、わざわざ買いに?」
「だって、いざ作りたいときにお前がいなきゃ、作れないだろ。ほら……」
 ケーイチさんは画面を向いて、マウスをカチカチとクリック。
 何かの画面をひらいて、ディスプレイをあたしの方へ向けてくれました。
「ちょうどヨドバシの在庫情報見たら、箱が2つ付いていたから」
 ヨドバシカメラのホームページ。
 そこからあたしの賞品ページがあって、さらにそこであたしの在庫状況が確認できるようになってました。
 箱が2つ……
 そのページの説明によると、箱マーク3つで「在庫あり」、2つで「在庫残少」、1つで「在庫わずか」。
「あたしが売られていたのは……」
「ここだよ。マルチメディア町田店」
 そこに箱の絵は存在しませんでした。つまり、売り切れ。「在庫なし」。
「な。無くなるのはやいだろ?」
 ということは……
 あたしは、お店でバイバイしたあたしを思い出す。
 よかった。最後のあたしも売れたんだ。
 今現在、箱の絵はどこの一ヶ所を除いてどの店舗にもついていない。唯一、新宿西口本店にぽつんと1つついているだけ……
 あたし、人気商品だぁ。(※6)
「て、わけだ。急いで買いに行ったのに、売り場で案内されたときはすでに残り2つ。ギリギリだったんだよ。だから、とりあえず確保。な? わかるだろ」
「……………………むぅ」
 取りあえず確保……かあ。
 わかるだろ、とか言われてもあたしは確保される側だから、確保する側の気持はよくわからない。
 う~ん。
 それだけ人気があるとなると……仕方ないのかなあ。
「念のため、もう1回だけ確認させてください」
「な……なに?」
「本当に、後で使ってくれるんですね?」
「ああ」
「買ったからもう満足とか、転売目的じゃないんですね?」
「う、うん」
「で。今は忙しいから……後回しなんですね」
「そういうことだ」
「む~~」
 何となく、低いうなり声が出る。
「はあ、分かりました」
 納得したくないけれど、仕方なく納得することにする。
「忙しいなら仕方ないですよね」
 ミクだって物わかりの悪い子ではありません。ここは引くことにしました。
「そうか。分かってくれたか」
 安堵するケーイチさん。
 悲しくなるので、そんなに嬉しそうな顔しないで欲しいです。
「家にあるものは好きにしていいから。冷蔵庫にはネギもある」
 ――ぴく。
「ネ、ネギなんかじゃ誤魔化されませんよ」
 反応しておいて何だけど、ここは強がっておく。ネギで懐柔できる安い子と思われるのもシャクだから。
「わかってるわかってる」
 何ですか、ケーイチさん。その見透かしたような目は?
 もう。

 さて、これからどうしよう。
 ケーイチさんが再び画面に向かって何かをしだしたので、あたしは手持ちぶさた。
 心は冷蔵庫にあるというネギに向かっているけれど、すぐに飛びついたら負けのような気がするのでぐっと我慢。
 う~~ん。
 もう1回お部屋を見回す。
 やっぱり、ちょっと汚いなあ。
 お掃除でもしてあげようかな?
 でも、ミクはボーカロイドであってメイドさんではないのです。掃除をするのは何か筋違いのような気もしたり。
 でも、あたしはホコリに弱いし、自分のためという考えも……
「………………………………」
 カタカタカタカタ。
 ケーイチさんがキーボードを叩く音。
 本当に、忙しそう。
 やっぱり、お掃除してあげようかな?
 買い主であるケーイチさんとあたしは、いわゆる切っても切れない仲。
 これから一緒に歌を作っていくんだから、ケーイチさんが大変なときはあたしが助けてあげるのが当然かも知れない。
 うん、そうだよね。
「よし」
 気合いを入れて立ち上がる。
 簡単にお部屋のお掃除して……できたら夕ご飯を作ってあげて……
 ネギがあるんだよね。ネギ丼とかネギカレーでいいかな(※8)。
 それで、ごはんの時に歌の話をしよう。
 どんな歌を作るか相談し合おう。
 さて、掃除機はどこにあるんだろう?
 部屋をぐるりと見回したあたしは……

 見てしまった。
 チラリと見えてしまった。ケーイチさんが向かっている画面を。
 人が何かをしてる所を覗くなんて、お行儀悪い。マナー違反。
 だから、見たらいけないと思ったけれど……見えちゃったものはしょうがない。
 その内容に驚いた。
「え?」
 行きすぎた視線を画面に戻す。
 マナーとかそういう問題じゃない。
 というか信じられない。
「ケ……ケーイチさん?」
 カタカタカタカタカタ。
 ケーイチさんが叩くキーボードの音。
 お仕事だとばかり思っていたその画面は……

『ニコニコ動画』

 でした。
 ほんと……
 信じられない!
 見間違いだったらいいな、と思いつつケーイチさんの背後にそおっと接近。
 抜き足、差し足、ミクの足。
 ケーイチさんが見ている動画はやっぱりニコニコ動画でした。
 しかも、見ているのは……

『アイドルマスター』

 ほんとほんと……
 信じられない! ×3。
 なんでアイドルマスターなの? あたしの動画じゃないの?
 これがあたしの動画なら、まだ許せた。むしろ心が温かくなったかもしれないのに! のに! のに!!
 カタカタカタカタカタ。
 そのうえ、さっきからケーイチさんが打っていたのは……

『弾幕』(※7)

 え?
 何?
 …………
 これが「忙しい」の正体?
 まってまって、殺すほど待って!
 買ってきたばかりのあたしを放置して。
 後回しにして、こっちを見向きもしないで。
 やってたのが、これ?
 あたし、買われたてだよ?
 人間で言うなら、新婚さん?
 結婚当日、奥さん放っておいて別の女の家に遊びに行くようなものじゃない? これ。 怒っていい?
 怒っていいよね、この状況。
 ああ、でもまって。堪えて、あたし。
 あたしはボーカロイド。ロボットとは少し違うけれど、人間に手を出したらダメ。それはダメ。
 アイザック・アシモフ博士も言ってます。ロボット3つのお約束。
「人間を攻撃しちゃダメ」
「人間のいうことを聞こう」
「自分も大事に」
 うぅ、こらえろ……こらえろあたしぃ。
 そんなあたしの堪忍袋の緒は、ケーイチさんの一言であっさり切れた。
 コメントを打ち終わった後の、満足そうな一言。

「ふぅ、やっぱ閣下に勝る人はいないよな~」

 ぷっつん切れた。
 何を嬉しそうに言ってるの~~っ!!
 ヨロヨロとよろめくように3歩下がり……
 助走距離確保。
「け…………」
 タタッと2歩走って、
「ケーイチさんの」
 ケーイチさんに向かってジャンプ。
「ぶわかぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
 もう、頭が沸騰してた。
 ごめんなさい、アシモフ博士!!
 そしてクリプトンのお父さん、16才というメンタリティは不便です。我慢が聞きません!! ミクも最近の若い子なんです!

 っていうか、ふざけるなぁ――――――――――っ!!
 時間にしてわずか1秒にも満たない飛翔。
 そのまま、ドーンとあたしはケーイチさんに激突した。
「うわあっ!」
「ホントに、ばかばかばかばかばか――――――――――――――――――!」
「な、なんだなん……痛えっ!」
 ぶんぶん振り回した手がケーイチさんにクリーンヒット。
「うわぁ――――――――――――――――――――――――――――――――ん!!」
「ミクがっ、ミクが暴走した! さては初期不りょ……うがっ!」
 ひどい、初期不良なんて!
 悪いのはケーイチさんなのに! ケーイチさんなのに!!
 ぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽか!
「いて、いてててて。何だ?」
 それからしばらく。
 あたしは、大泣きしながらケーイチさんを叩き続けたのでした。

 (たぶん、つづく)

※6:今は、そこそこ在庫があるようです。
  http://www.yodobashi.com/enjoy/more/i/73857680.html
ヨドバシの商品ページはこちら。「店舗で商品を~」のボタンで在庫が見れます。
※7:弾幕コメント。愚民系の弾幕って綺麗なの多いですね。
※8:どちらも実在のメニューです。

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初音ミクのべたべた物語・番外01


「くしゅん!」
 うぅ、寒いです。
 ボーカロイドも寒さを感じることが出来るんですね。
 ガクガク震えます。

 今日はケーイチさんとお買い物をして、ネギを箱買いしてきました。
 深谷ネギです。深谷ネギ。
 埼玉でとれる、とってもおいしいネギです。一味違います。ネギに興味があるなら、是非一度食べてみてください。そうすれば、余計な説明はいらなくなります。そういうネギです。
 お店で見た途端に、惹かれました。こういうのを一目ボレというのでしょうか?

 あ、でも……おねだりしたわけじゃないですよ。
 あたしは買われたばかりのボーカロイド。ちゃ~んと、身の程はわきまえています。贅沢なんて言えません。
 指をくわえてじーっと見ていただけです。
 本当です。欲しいなんて一言も言ってません。絶対に言ってません。我慢してました。
 そうしたら……神様っているのかもしれませんね。
 なんと、ケーイチさんが……
「あ~……そんなに欲しいなら買ってやるよ」
 と言ってくれたのです!
 なんという以心伝心! ケーイチさんはエスパーでしょうか?
「あ、ありがとうございますケーイチさん!」
 あたしは感激のあまり、ネギの箱を抱きしめました。
「え? 箱買……」
 もう、ミクは感激感激、感激の嵐です!
「本当に、ありがとうございます!!」
 心を込めて、笑顔の大サービスです。

 にぱ――――――――――――。

 0円スマイルに負けません。もう、にっこにこ。心からの笑みがこぼれてきます。
 そうしたら、
「……………………わかったよ……」
 ケーイチさんはそう言って、何故かガックリとうなだれてしまいました。
 どうしたんでしょう?
 ちょっと気になったけれど、あたしはネギを買ってもらってとってもとっても幸せ気分。

 でも。
 幸せと不幸せってバランスがとれているんですね。ミクは思い知りました。
 買い物の帰り。
 ドバッと雨に降られたのです。
 濡れ鼠です。びしょびしょになりました。水だらけのミクです。
 ケーイチさんとともに、ずぶ濡れになりながら家に転がり込みました。

 そして今。
 濡れた服を乾かします。
 うぅ、寒いです。
 雨は幸い、通り雨でした。
 今はお日様が照っています。この調子なら、夕方までには乾くでしょう。
 しかし、問題が残っています。
 そうです。
 よく考えたら私、これしか服を持ってないのでした!
「いや……着ろよ。俺の貸すから」
「うぅぅ、でもボーカロイドとして人間の服を着るわけには……」
「つってもお前、唇の色が髪の色と同じになってきてるじゃないか!」 
「そうなんですけれど……アイデンティティが……」
「我慢して風邪ひいたらどうすんだよ」
「大丈夫ですよ。あたし、ボーカロイドですから。風邪なんか……っっっくしょんっ!!」
「思いっきりくしゃみしてんじゃねぇか!」
 あれ、変だなあ?
 あ……でも風邪を引いたらネギを首に巻くっていいますよね?
 風邪っていうのも悪いことばかりじゃないのかも。
 首にネギを巻いた自分を想像して……
 あたしは、ちょっぴりうっとりとしてしまったのでした。 

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