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初音ミクのべたべた物語02


●1
 まずは三つ指ついてご挨拶。
「初めまして。ええと……これからよろしくお願いします!」
 礼儀正しく、頭を下げる。
 だってあたしはゲームじゃないもん。礼儀作法くらい心得てるもん。そういうアピールを微妙に込めて。
「ん? ああ、こちらこそ」
 あたしの買い主は、ちょっと気のないお返事。
 さて、あたしはこの人を何て呼べばいいんだろ?
 え~~っと。
 こういう時は素直に当人に聞くのが一番かな。
「あの……」
「ん?」
「こ、これからあたしは、その……何とお呼びすればいいんでしょう?」
「呼ぶ?」
「その……」
 何と呼んでいいのか分からないので、ピッと買い主の人を指さした。
 でも、人を指さすのって本当はあまりお行儀よくないかったはず。
 ごめんなさい。今は非常事態という事で許してください。
「ああ、俺?」
「はい」
「う~ん。俺の呼び方かぁ」
 買い主の人が考え込む。
 あたし的に無難なところは「マスター」あたりかな?
 「ご主人様」や「旦那様」でも……まあ、ありがちだし許容範囲内。「お兄ちゃん」とか言われたら……が、がんばって慣れるしか!
「ハンドルかなぁ……」
「ハンドル?」
「ハンドルネーム」
「あ、ああ。ネットで使う名前……」
「そう」
 なるほど、HN。それはいいかも。「マスター」とか「ご主人様」って呼ぶより、名前で呼ぶ方が親密っぽい感じがするはず。
「いいですね。何てお名前を使ってるんですか?」
 と、笑顔で尋ねてみる。
「いや、大した名前じゃないんだけど……」
 ちょっと照れながら、買い主の人は教えてくれた。

「純情愚民ふともも派」

 その時、確かに時は止まりました。
 ザ・ワールド発動です。あたしの買い主はディオ様でした。
 あたしの笑顔も固まりました。
 というかフリーズ?
 ……………………
 あ、違う違う。今のナシ!
 あたし、フリーズなんてしないもの。飛びバグなんてないもの。返品なんかされたらたまらない。
 買い主の人は大した名前じゃないって言っていたけど、
 全然大した名前じゃないですか!

 ザ・ワールドで止められる時間はわずかに数秒。
 そして、時は動き出す。
 あたしはうまく回らない舌を何とか稼働させて言葉を紡ごうとした。
「じゅ、純情……え? じゅ……」
「純情愚民ふともも派」
 ハッキリキッパリ繰り返す買い主の人。
「まぁ、略称だけどな。正確には純情愚民右ふともも派って言うんだ。春閣下に忠誠を誓う……特に、右ふとももに忠誠を誓う愚民の1人さ」(※5)
 うわぁ、どうしよう?
 あたしの予想を遙かに上回っちゃった。
 繰り返して言うね。

 遙かに上回っちゃった!!

 あたし、この人をこれから「純情愚民フトモモ派さん」って呼ばなきゃいけないの!?
 これって何かの罰ゲーム? それとも、アマゾンか誰かがしかけた罠!? あ、もしかしてゴルゴムの仕業!?
 うぅ……
 あたし愛せるかな?
 運命の人が「純情愚民フトモモ派」って名前でも愛せるかな!?
 自分に自信がもてません! ごめんなさい、ミクは弱い子です!!
 どうしたらいいのクリプトンのお父さん!
 と、悩むあたしに一筋の光明が差し込んだ。
「そうでなければ、ベタに本名でもいいかな」
 本名!?
「ケーイチって言うんだけど」
 聞いた途端に飛びついた。
「それ―――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!!」
 もう、あり得ない早さで飛びついた。
 今のあたしなら成歩堂さんより素早く指さすことが出来るはずっ! 異議あり! 異議あり! 異議ありぃぃぃっ!!!
「それ?」
「それです、それっ! いいです本名! ケーイチさん! すっごい素敵な名前ですね~!! あたし、ケーイチさんって呼びたいなあ! ケーイチさんじゃダメですか? あたし、ケーイチさんって呼んだらダメですか!? ケーイチさんって呼べたら幸せだなぁっ!!」
 もう、我ながら必死。
 笑わないでください。本当に必死なんです。あたしの運命の人が「ケーイチさん」になるか「純情愚民フトモモ派さん」になるかの瀬戸際なんです。必死でも見逃して下さい。
「別にいいけど、平凡じゃない?」
「そんっっっっっっっっっ……」
 あたしは力を込めて言った。
「っっっっっっっっっっっっっっなこと、ないです!」
 頭の回路が1本くらい切れてもおかしくないくらいに力をこめて言った。
「素敵じゃないですか! ご両親に感謝しなくちゃ! ねぇ、ケーイチさん。いいですよね、ケーイチさんで。ビバ、ケーイチさん! ばんざい、ケーイチさん!! ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!!」
「何かそこまで持ち上げられるとかえって抵抗あるけど…………まあ、かまわないよ、それで」
「よかったぁ!」
 勝った! 勝ちました! ミクはやりましたよ!! 運命に打ち勝ちました!! 運命なんて、金魚すくいの網より薄いんです!!

 それじゃ、心変わりされないうちに……
 改めて、三つ指ついてご挨拶。
「それじゃ、ケーイチさん。これからよろしくお願いしますね! ケーイチさん!!」
 ケーイチさんって部分に力を込めて、礼儀正しく頭を下げる。
「あ、ああ……」
 ケーイチさんは、わけが分からなそうな顔をしている。何であたしがこんなに必死なのか、全然分かってないみたい。
 もう、鈍感。
 なにはともあれ、これで第1関門はクリア。
「さて……」
 一息ついて、次のステップへ。
 ケーイチさんとあたしの「あしたのために・その2」。
「それでですね。これがあたしのマニュアルになります」 
「ああ、はいはい」
 マニュアルをケーイチさんに手渡した。
 あたしのマニュアルは30ページにも満たない薄いもの。もっと詳しいマニュアルもあるにはあるけれど、パッと目を通せるのはこのマニュアルだけ。
「で、あとこれが『はじめにお読み下さい』です」
 さらに手渡し。
「ん? はいはい」
 インストールからアクティベーションまでを説明したB5サイズの紙。
 ケーイチさんが、渡したそれらをパラパラと見ている。
 その間はあたしも待機状態。
(ここが……今日からあたしの家)
 一息ついて、周囲を観察するゆとりも生まれてきた。
 あたしはケーイチさんの部屋をチラチラと見る。
 お部屋は6畳くらい、かな? 和室で隣の台所と繋がっているから、ちょっと広く感じる。
 1人暮らしっぽいな。
 テレビがあって、パソコンがあって……
 床には散乱するのは雑誌……お洋服……ゲーム機のコントローラーやソフト……
 ちょっと、いや……結構、散らかっている、かも。
 結構じゃなくて、だいぶ?
 よく見ると、台所のフローリング……歩いているであろう場所以外、うっすらとほこりがつもっているような。
 う、う~ん。
 でも、男の人の1人暮らしなら普通なんだよね? よね? これくらい。
 誰ともなしに尋ねてみる。
 もちろん、誰も答えてくれない。
 普通……だよね。
 少なくともゴミが腐って腐臭がしているとかはないから、よしとしよう。しちゃいましょう。
 と、ここでパラパラとマニュアルをめくっていたケーイチさんが顔を上げた。
「うん、だいたい分かった」 
「そうですか!」
 今度は自然と笑みが浮かぶ。
 さあ、いよいよ歌いますよ。
 私の名前は初音ミク。
 歌を歌うために作られたボーカロイド。
 初めから自在に歌えるわけではないけれど、そこは努力と根性で。
 あとセンス。
 がんばっていきましょうね、ケーイチさん!
「じゃあ、まずアクティベーションからですね……」
 意気込むあたしに、ケーイチさんはアッサリと言った。 
「あ、後でね」
「え?」
 アッサリ言って……
 マニュアルをポン、と机の脇に置いちゃった。
「……え?」
「まあ、適当にくつろいでて」
「え? あ……はぁ」
 ケーイチさんは、ワケも分からず頷くあたしに背を向けて……
 パソコンの電源ボタンをポチっと押した。

 それから数分。
 ケーイチさんがふり返るのを待っていたけれど、ちっともこっちを見やしない。

 あれ? あれぇ?
 ちょっと待って。この状況は何?
 ケーイチさんは、あたしの事なんか忘れたよって雰囲気で、キーボードをカタカタと叩きはじめた。

 (たぶん、つづく)



※5:愚民のみなさん、なんか楽しそうでうらやましいと思うこともあります。でも、困ったことに愚民に加わる踏ん切りがつきません(我が家の360、ネットに繋いでないし)。
 まずは三つ指ついてご挨拶。
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